透析患者の皮膚乾燥の症状
透析治療を受けることで様々な特有の合併症が生じます。
中でも皮膚の乾燥は、透析患者の約9割に認められ、「かゆみ」の主な原因になっていることが多く、命に係わることが少ないため、軽視されがちです。しかしながら、かゆみによる不快感やイライラ感、不眠だけでなく、掻いてしまうことで傷ができ、その傷から感染がおこったり、なかなか治らなかったりと困ることが多くあります。(写真①)
写真①
足全体が乾燥し痒みがあるため、掻いたことによる傷が見られる。
皮膚疾患がある場合は、皮膚科でも治療を優先しますが、乾燥だけの場合はいかに保湿するかが大切で、効果的な保湿をすることでかゆみの症状が改善します。また特に足は健常人に比べ乾燥が強く、角質の肥厚や亀裂などは足病変の原因となります。
また、透析治療を受ける前の腎不全の時から約25%の人に末梢動脈疾患(PAD)が見られ、PADは透析導入後、さらに増加していきます。その疾患になってしまうと、足にできたわずかな傷が徐々に潰瘍となり、その潰瘍は血流がないことで治りにくく、切断に至ってしまう場合もあり、生活の質を大きく下げることになります。(写真②、③)
写真②
末梢動脈疾患患者の足
足全体は冷たく、すね毛もなく皮膚が光沢している。下肢の血流が少なく、酸素や栄養が行き届きにくいため、ふくらはぎの筋肉は少ない。
写真③
末梢動脈疾患患者の足の傷
足のゆびにできたわずかな傷が日に日に悪化し、壊疽(えそ)の状態となった。
透析患者が注意すべきスキンケアのポイント
それでは、日頃からどうすればよいのでしょうか。具体的に、5つのポイントに分けてご紹介します。
① 身体を洗うときは、泡でやさしく洗い、ゴシゴシ洗わない。
お湯だけでもある程度の汚れは落ちます。皮脂などをとりすぎてしまうと、皮膚の「バリア機能」が低下して乾燥の原因となります。石鹸を使う場合はよく泡立てるか、泡ででてくるタイプの石鹸を使用します。擦るのではなく「泡」でやさしく洗うようにします。
足のゆびの間は、特に汚れます。そこに白癬菌が付着すると、菌が皮膚に密着しつづけてしまうこともあり、なかなか治りにくく、ジュクジュクしてきたときはかなり危険です。しっかり洗って、白癬を予防します。(写真④)
写真④
足白癬の悪化例
足白癬が悪化し、ゆびの間が浸軟(ふやけている)し潰瘍になってしまった。
② 入浴剤を有効に使いましょう。
保湿効果のある入浴剤を使いましょう。また使用した場合はお風呂から出るときに洗い流してしまうと効果が落ちてしまいます。洗い流さないようにしましょう。
③ 保湿剤を塗りましょう。
保湿は、入浴後10分以内に行うことが効果的です。
手のひらで伸ばしてやさしく塗ります。背中などの届かないところは、塗ってもらうか、保湿効果のある入浴剤を使いましょう。
また足に塗る場合は、踵など乾燥の強いところは念入りに塗りますが、足のゆびの間は乾燥しませんので塗らないようにしましょう。
また、その際に足の観察をして、触って、異常がないか調べましょう。
④ 足の保護をしましょう。
靴下を履くことで、保湿効果も高まり、ちょっとした外傷から足を守ることができます。しめつけの少ないもの、通気性や吸湿性が良いもの、色は白っぽいものの方が、ケガをしたときの出血や膿などの発見がしやすいでしょう。
また、履物は、サンダルではなく靴を履くことが重要です。足に合った靴を履き、スニーカーなどしっかりと紐を結んで履くことでしっかり歩けるだけでなく、靴擦れや胼胝(たこ)などの予防にもつながります。
⑤ 爪切りが自分でできない場合は、医療者に依頼しましょう。
ついうっかりやってしまった深爪がなかなか治らず、感染などを起こすことがあります。自分で行う場合は、爪やすりで削るなど安全な方法を選択するようにしましょう。
「いつまでも歩ける足」を目指して、足にわずかな傷を作ることで足を失うことにならないよう、日頃からのスキンケアを見直し、快適な生活が送れるようにしましょう。