1.脂漏性皮膚炎の原因
脂漏性皮膚炎は成人によくみられ、頭部、顔面、腋窩、胸部や背部正中部などの、いわゆる脂漏部位(皮脂腺が多く存在する部位)にできやすい湿疹をいい、通常痒みを伴います。一般的にいうフケ症とは軽症の脂漏性皮膚炎を指しているものと考えられます。脂漏性皮膚炎の発症頻度は人口の3~5%といわれており、人種差はなく、男女比は2:1で男性に多い傾向があります。真菌の一種で癜風の原因菌でもあるマラセチア(癜風菌、ピチロスポルム)が脂漏性皮膚炎の原因といわれています。マラセチアは皮膚に常在する真菌ですが、皮脂を好み脂漏部位で増殖します。すると皮脂中のトリグリセリドが分解されるなどしてそれが皮膚を刺激し皮膚炎を生ずると考えられています。脂漏性皮膚炎におけるマラセチアの鏡検陽性率は年齢、性別、部位により異なりますが、35~90%といわれています。HIV感染者ではマラセチアの異常増殖により脂漏性皮膚炎も発症しやすく、8割にみられるという報告があります。
しかしながら、マラセチアだけで脂漏性皮膚炎の病因をすべて説明はできません。ステロイド外用薬が脂漏性皮膚炎には有効であるのに対し、癜風は悪化することから、マラセチアだけによる疾患とはいえず、個人の体質の違いなどが関係するのだろうといわれています。
2.脂漏性皮膚炎にみられる症状
脂漏性皮膚炎患者の約2/3は頭皮に症状を有し、粃糠様落屑(いわゆるフケ)を付着した紅斑で、髪際部に皮疹がよくみられます(図1)。放置しておくと髪の毛は細く乾燥して光沢がなくなり、毛髪が抜けてくることもあります。
脂漏性皮膚炎患者の約半数が顔面に症状を有し、特に眉間や鼻背から鼻周囲、鼻唇溝が生じやすい部位でカサカサとした赤みを伴います。耳もできやすい部位で、耳の入り口や耳後部に皮膚症状がみられます(図2)。前胸部や背部の正中部、腋窩、股部にも発疹が見られる場合があります。
比較的診断は容易ですが、前額部の髪際部などに発疹が限局しているときは、尋常性乾癬の初期と鑑別しにくいことがあります。このような場合は、肘や膝などに発疹が現れないか注意して経過を観察する必要があります。
3.脂漏性皮膚炎の治療とスキンケア
脂漏性皮膚炎に対してはステロイド外用薬がよく使われます。ステロイド外用薬は即効性が期待できますが、治療中止後の再燃が早く、長期外用による皮膚萎縮、毛細血管拡張などの局所的副作用も懸念されます。一方、マラセチアに効果をもつケトコナゾール外用薬が治療薬として承認されています。ケトコナゾールは長期の外用でもステロイド外用薬にみられるような副作用がなく、ステロイド副作用の生じやすい顔面には使いやすい薬剤です。また、ケトコナゾールは外用中止後も寛解期間がステロイド外用薬より長く持続するという特徴もあります。一方、抗炎症作用はステロイド外用薬より弱いために、炎症症状の強い皮疹に対しての単独使用は不向きです。症状が安定している時にはケトコナゾールを用い、症状の悪化時にステロイドを短期間使用しながら症状をコントロールしていくなど、双方の特性を生かした補完的な使用方法が望まれます。
スキンケアについてですがマラセチアは脂を好む真菌であるため油性整髪料は使用しないよう指導します。洗髪は必ずしも毎日である必要はありませんが、皮脂を取り除いてマラセチアの増殖を防ぐようにします。フケ用シャンプーとしては様々な成分を含む製品が発売されていますが、マラセチアを抑える成分を含むものがお勧めです。そのほか、使ってみて自分の気に入ったものを使用すればよいでしょう。また、生活のリズムを整え、暴飲暴食を避けバランスのとれた食事をとり、睡眠が不規則にならないように注意することも大切です。