私たちの皮膚にはたくさんの「常在菌」が存在します。私たち一人ひとりの皮膚表面や毛穴の中に、約20種類、数百億個の常在菌が生息しています。この常在菌は「雑菌」として見過ごされがちですが、実は皮膚を守る良い働きをしているものが多く、大切にする必要があります。皮膚常在菌は体の各部位でさまざまな役割を果たしているのですが、ここでは顔に存在する2種類の菌にフォーカスを当てることにします。
表皮ブドウ球菌は「美肌菌」とも呼ばれる良い働きをする菌です。全身の皮膚の角質のすき間などに隠れており、特に菌数の多い顔では数億個が生息しています。この菌は肌に潤いを与えるグリセリン関連物質を分泌したり、肌荒れやアトピー性皮膚炎を引き起こす黄色ブドウ球菌を退治する抗菌ペプチドを産生し、肌を守る大切な役割を担っています。
この表皮ブドウ球菌の美肌作用を生かすには、洗顔の回数は最小限にとどめるべきです。この菌は肌の表面近くに住んでいるため、石鹸での洗顔回数が多いと菌数が少なくなってしまいます。洗い流された菌数が回復するまでには半日程度かかるので、表皮ブドウ球菌の効果を生かすためには石鹸洗顔の回数はせいぜい1日1回にとどめる必要があります。また、汗は表皮ブドウ球菌の栄養になるほか、病原菌を退治する抗菌ペプチドにより表皮ブドウ球菌の働きを助けるため、普段汗をかくことは好ましいことです。
アクネ桿菌は表皮ブドウ球菌よりさらに数が多く、顔では数十億個に及びます。この菌は従来、ニキビ(英語で「アクネ」)の患部から検出されるため、ニキビの原因と考えられていました。しかし後に、全ての人の毛穴の中に多く存在しており、また肌を弱酸性に保って守る働きをしていることが判りました。つまり悪い菌ではない側面もあるのです。最近の研究で、ニキビの発生メカニズムが徐々に明らかになりました。ニキビ患者では毛穴の詰まりが目立っており、この詰まりがきっかけで毛穴の中の酸素が失われた結果、アクネ桿菌が炎症を起こす「CAMP因子※」を出してニキビを作るのです。実は毛穴の詰まりを除去すれば、この菌を退治しなくてもニキビが治るのです。要は毛穴を詰まらなくすることが大切なのです。
顔の毛穴は細長く、洗顔だけで詰まりを取ることはできません。近年、毛穴の詰まりを除去する外用薬が開発され、抗菌薬を使わない治療が広く行われるようになりました。ニキビは痕が残りやすい病気ですので、ニキビが気になるようになったら早めに皮膚科を受診することをお勧めします。
※CAMP因子(Christie-Atkinson-MunchーPeterson factor):レンサ球菌の感染に関わることで知られるタンパク