西澤 綾 先生

抗がん剤治療によって生じる皮膚障害と
予防・スキンケア方法について

がん研有明病院
皮膚腫瘍科・皮膚科
医長
西澤 綾 先生

はじめに

がん治療には従来の抗がん剤である細胞障害性抗がん剤のほか、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などによる抗がん剤治療、放射線治療があります。これらの治療はがん細胞に作用して効果を発揮しますが、正常な細胞にも影響を及ぼしてしまうため副作用が生じます。この副作用は皮膚でも生じ、時には重症となることもあります。ですが、だいたいのものは予防や適切な対応で比較的コントロールできるものです。予防には日頃のスキンケアが有効で、発症予防、重症となることが防げるため、治療を継続していくために必要になります。
日頃行ってしまいがちな悪化因子を除去し、より効果的なケアができるように、正しいスキンケアの方法について紹介します。

1. 抗がん剤治療によって生じる皮膚障害

薬剤により皮膚障害の症状が異なります。まず、細胞障害性抗がん剤では、紅斑や湿疹ができたり、痒みや乾燥、脱毛、皮膚が黒っぽく色素沈着する、爪では色がついたり、浮いてしまう、剥がれてしまうなどの症状が起こります。分子標的薬ではEGFR阻害薬とマルチキナーゼ阻害薬が皮膚障害の頻度が高い薬剤です。
EGFR阻害薬ではニキビのような皮疹(ざ瘡様皮疹)が最も起こりやすく、その他にも爪の周りが赤く腫れる(爪囲炎)、皮膚の乾燥や痒み、縮毛などの毛髪の変化が起こります。マルチキナーゼ阻害剤では手足症候群という、手のひらや足底に有痛性の紅斑や水疱を形成し、徐々に、難治性のタコを形成します。最近行われるようになってきている免疫チェックポイント阻害剤による治療では免疫関連の有害事象として様々な皮膚障害が生じますが、痒みや紅斑、湿疹が比較的頻度が高く起こります。放射線治療では、照射する部位の皮膚が乾燥し、痒くなったり、やけどのような症状として赤くなったり皮膚がめくれやすくなってしまったりします。

細胞障害性抗がん剤〔パクリタキセル〕による爪囲炎 細胞障害性抗がん剤〔パクリタキセル〕による爪甲剥離
細胞障害性抗がん剤〔パクリタキセル〕による爪囲炎(上)と爪甲剥離(下)

2. 発症予防

抗がん剤治療や放射線治療で皮膚に障害が生じると、皮膚のバリア機能が低下し、乾燥肌になりやすく、刺激に弱くなります。いずれの治療においても、発症予防には健常な皮膚の状態を保つことが基本で、悪化する要因となるものを除去し、皮膚の保湿・保護と清潔に保つこと(保清)が重要になります。

①悪化因子の除去

皮膚に刺激となるようなことは避ける必要があります。例えば、過度な日焼け、入浴時ナイロンタオルなどでのごしごし洗いは皮膚の乾燥につながります。食器用洗剤、漂白剤による刺激も手荒れの原因になります。また、手足症候群が起こりやすい薬剤を使用する場合では、長時間の歩行や手足に負担のかかる作業などは避けたほうがよいでしょう。

②保湿・保護、保清

外用剤による保湿、やわらかい素材の衣類着用や綿の保護グローブでの保護を行います。また、石鹸を使用したシャワー浴、入浴、難しい場合はタオルなどでの清拭を行い、皮膚を清潔に保つようにします。

3. スキンケア

皮膚障害発症予防、さらに発症後の悪化防止にも日頃のスキンケアが重要になります。

①乾燥予防

保湿をこまめに行い、皮膚のバリア機能を保つことが必要になります。皮膚の状態、部位により、軟膏、クリーム、ローション、スプレーを適宜選択します。例えば、乾燥が強い場合や手足でひび割れや硬くなってしまっている場合などでは軟膏を、顔や手作業時(パソコン操作など)など、べたべたしたくない場合にはクリームやローションを、頭皮、背中などではスプレーを選択するとよいでしょう。
保湿剤は病院で処方される外用剤の他、市販でも購入可能です。毎日使用するものですので、使用感のよいもの、継続して使いたくなるようなものを選ぶとよいでしょう。水仕事が多い場合は、保湿剤の上に市販で購入できるバリアクリームを併用することもお勧めです。外用方法は、皮膚表面をコーティングする感覚で、適量を、やさしくのばすように塗布し、ごしごしと擦りこまないようにしましょう。
入浴後はできるだけ入浴後5分以内に、手の洗浄後は洗浄の都度、保湿剤を適量外用するようにしましょう。
保湿には外用剤の他、保湿効果のある入浴剤の使用も効果的です。ただし、お湯の温度が熱すぎると皮脂が逃げてしまいますので、40℃くらいの温めの設定にしましょう。

②保清対策

爪囲炎や放射線皮膚炎でびらんが生じた場合は細菌感染が起こりやすいです。また、皮膚の湿疹病変も掻破により傷ができると感染しやすい状態になります。できるだけ毎日石鹸を使用し入浴するようにしましょう。爪囲炎では爪の下や爪の脇に浸出液がたまり、痛みで洗浄が難しくなり感染が悪化することがあります。泡石鹸を使用し、綿棒などを使用するとよいでしょう。出血もしやすいので、愛護的に洗浄し、やさしく汚れをとるようにします。

まとめ

がん治療で比較的皮膚障害は起こりやすいですが、だいたいのものは、予防対策、スキンケアで発症頻度、重症化を抑えることができます。日頃からのスキンケアで皮膚障害によるQOL低下を防ぎましょう。

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