祖父江 正代 様

放射線療法を受けるときに大切なスキンケア

JA愛知厚生連 江南厚生病院 緩和ケア病棟
皮膚・排泄ケア認定看護師
がん看護専門看護師
祖父江 正代 様

1.放射線皮膚炎とは?

 放射線皮膚炎とは、がん治療のために放射線をあてることによって起こる皮膚の炎症です。体の外から放射線をあてる場合、皮膚を通過して放射線ががんの部位まで届くため、がんの細胞だけでなく、皮膚にも影響が起こります。
 皮膚の表面にある表皮は外側から角質層、顆粒層、有棘層、基底層という層になっています。そして、皮膚は一定の周期で生まれ変わり、基底層で生まれた細胞は形を変えながら皮膚表面に押し上げられ、最後はアカとなって自然に剥がれ落ちていきます。
 しかし、放射線療法を受けた場合、生まれたばかりの基底層もダメージを受けてしまうため、やがて角質層になるはずの皮膚の細胞が減ってしまい、皮膚が薄くなってしまいます。さらに、皮脂が分泌される皮脂腺や、汗が分泌される汗腺も影響を受けるため、皮膚の水分を保つ機能(バリア機能)が低くなるため、皮膚が乾燥したり、炎症を起こしたりします(図1)。

放射線皮膚炎
図1 放射線をあてている途中から皮膚が赤くなり、乾燥してきた。

2.スキンケアの重要性と予防的スキンケアに必要な3つの“保”

 放射線治療は予定されている放射線の量をあてることでより効果が得られます。もし、皮膚炎が悪化して、重症になってしまうと治療を休止することにもなりかねないため、皮膚炎を最小限にとどめられるようにスキンケアを行うことが重要です。
 3つの“保”とは、①保清:皮膚を清潔に保ち、感染を予防すること、②保湿:皮膚の水分や油分を補って皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を保つようにすること、③保護:外部の刺激から皮膚を守ることです。その方法は後に紹介します。

3.スキンケアの方法

1)スキンケア用品を選ぶポイント

  • ①石鹸
    石鹸はできるだけ弱酸性と記載されたもの
  • ②保湿剤
    アルコールやヒアルロン酸などを含まないローションやクリーム
    (ヒアルロン酸は皮膚に浸透しにくいため、皮膚の表面に残りやすく、放射線皮膚炎を悪化させてしまうこともあります。)
    柔らかいと感じるクリームタイプのもので、無香料、無着色、敏感肌用のもの
  • ③タオル
    肌触りが柔らかいと感じるタオル

2)3つの“保”を取り入れたスキンケアの具体的な方法

 石鹸をよく泡立て、皮膚に手で泡を塗るように、泡を転がすようにして皮膚を洗います。泡が立つネット(図2)やポンプなどを使用すると泡立ちを助けてくれます。この際に皮膚を傷つける危険性があるボディブラシやナイロンタオルの使用は避けましょう。
 お風呂のお湯も40度以下にし、石鹸の成分を洗い流す時には、シャワーを水が流れ落ちる程度の圧力にしてぬるま湯で流すようにしましょう。洗った後は、タオルで軽く皮膚を押さえるようにして水分を拭き取ります。皮膚を擦ると、皮膚に傷が付いたり、放射線照射野のマークが消えてしまったりするため注意しましょう。
 入浴やシャワーを浴びた時には、皮膚は多くの水分を吸収しています。その水分が蒸発してしまう前に、皮膚を包み込むようにして保湿剤を塗りましょう。
 保湿剤は1日1回塗るだけでなく、医師や看護師に相談して皮膚の乾燥の程度に合わせて3~4回ぐらい使用するようにしましょう。

泡立てネット
図2 石鹸を付け、ネットを揉むことで泡ができます。

4.日常生活で注意すること

 スキンケアだけでなく、日常生活上の刺激を予防することも大切です(表1)。

表1 日常生活の注意事項

  • 照射している部位
    日常生活上の注意事項
    日常生活の注意事項
  • 胸やお腹の場合
    ・化学繊維の下着はかゆみにつながり、皮膚を傷つけてしまう危険性もあるため、綿の素材でゆったりとしたものを選びましょう。ガードル、ボディスーツ、セーターなどには注意が必要です。
  • 頬や首の場合
    ・放射線をあてている部位を締め付けるような服(タートルネックなど)やかぶりものの服は避けて、前ボタンの襟のない服がよいでしょう。
    ・男性の場合、髭剃りの際に皮膚を傷つけないよう電気かみそりを優しく当てるようにしましょう。
    ・女性の場合、化粧品の中に目に見えない金属の成分を含んでいるものやヒアルロン酸、コラーゲンなど皮膚に浸透しにくい成分を含んだものは避けるようにしましょう。わからない時には、医師に相談するようにしましょう。
  • 頭の場合
    ・髪を洗う時に爪を立てて洗ったり、ドライヤーで熱風を使用したりしないようにしましょう。
    ・頭皮に保湿剤を使用すると、髪にこびりついてしまったり、頭皮に保湿剤が残ってしまい、かえって汚れになってしまうこともあるため、医師に相談してから使用するようにしましょう。
  • その他
    ・無意識に掻いてしまうことも想定して爪を短く切っておきましょう。

5.スキンケア習慣

 生活に合わせたスキンケアを心がけることが大切です。保湿剤は入浴やシャワー時に衣類を着る前に塗ることができるような場所に置くようにするとよいでしょう。また、入浴やシャワー時以外にも使用できるようにバッグの中や寝室、キッチン、リビングなど、どこにあると使いやすいのか考えてみましょう。

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