安部  正敏  先生

「二階から目薬」と「目から鱗が落ちる」

医療法人社団 廣仁会
札幌皮膚科クリニック 副院長
褥瘡・創傷治癒研究所
安部 正敏 先生

 「二階から目薬」という諺は有名であり、もどかしい様を指す。なかなか要を得た故事であるが、異論を唱える向きがある。古く目薬は現在の様な液体ではなく、軟膏であった。皮膚科医でなくとも、軟膏はご存じであろうが、油性成分から出来ているものが多く、直接塗布するものであり、垂らすものではない。他方「目から鱗が落ちる」とは急に物事の実態が理解出来ることを指すが、「鱗」には皮膚の表面に位置する表皮が、最終的に脱落する際の物質の意味もあり、わかりやすく言えば「フケ」の様なものである。眼科に通ずる2つの故事は、実は皮膚にも通じるものであることはあまり知られていない。

 ところで、「フケ症」という用語があるが、これは正確な病名ではなく、正しくは「脂漏性皮膚炎」と呼ぶ。フケに悩む方は少なくないが、意外に立派な皮膚疾患との認識は少なく、皮膚科受診される方は多いとはいえない。脂漏性皮膚炎は、頭部や顔面、特に鼻周囲など皮脂の分泌が盛んな部位が赤くなり、その表面にいわゆる「フケ」様物質が付着する状態である。瘙痒は軽度か、みられないことが多い。本症発症には、皮膚の毛孔に常在するカビの一種であるマラセチア属が関与すると考えられており、その治療は、ケトコナゾール外用が主体となり、有用性が高い。通常、外用による治療が主体となり、抗真菌薬の内服は行わない。また、瘙痒が強い患者では、一定期間副腎皮質ステロイド外用療法を行うが、顔面や陰部などは吸収がよいため、弱めのレベルを選択することが肝要である。

 本症は、洗顔などを含めた生活指導が重要となる。食生活における脂分摂取制限などではなく、丁寧な洗顔と抗真菌薬の継続使用が重要であることを理解する必要がある。時に、頭部の本症はいわゆる「フケ症」と称され、頭部の不潔が原因という誤解により、患者のQOLを極めて低下させることがある。あくまで皮膚疾患であり、治療により症状がかなり改善できることを十分理解する必要がある。「二階から目薬」と「目から鱗が落ちる」は、いい意味で用いられる故事であるが、「二階から鱗」となるまで「フケ症」を放置するべきではない。

フケ症
▲写真 いわゆる「フケ症」。脂漏性皮膚炎である。
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