手湿疹(手荒れ)とは?
手に皮疹ができ、痒みや、亀裂により痛みを伴う状態を手湿疹(手荒れ)と言います。
手湿疹は日常生活で多く見られる皮膚炎です。この名称は、本来手指や手掌における湿疹性病変の総称で、その中には種々の疾患が含まれています。外界の環境や発汗、アトピー素因(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかあるいは複数疾患の家族歴・既往歴があるまたはIgE抗体を産生しやすい)1)によっても影響を受け増悪する疾患です。
手(手掌・手指)には皮脂腺がなく、角化が強いため皮膚が乾燥しやすく、また手を洗うことで乾燥しやすくなるため、皮膚のバリア機能が低下しやすい状態です。また、手は日常で様々なものに接触するため、物理的刺激も受けやすいという特徴があります。そういった理由から様々な抗原やアレルゲンが角層に侵入しやすく、手湿疹の原因となります。
手湿疹(手荒れ)の仕組み
手湿疹は外来性の刺激物質や接触アレルゲン(ハプテン、蛋白抗原)が皮膚に接触することで発症する接触皮膚炎が主体となります2)。刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、蛋白質接触皮膚炎の3つの機序によるものに分類されます3)4)。
刺激性接触皮膚炎
触れる化学物質の特性により、皮膚の角層が障害されて生じます。
アレルギー性接触皮膚炎
触れた化学物質に対して感作と惹起の段階を経て、Ⅳ型の遅延型アレルギー反応により生じます。
蛋白質接触皮膚炎
角質層が破綻すると、分子の大きい蛋白質は皮膚に入り、Ⅰ型の即時型アレルギーを起こします。Ⅰ型の即時型アレルギーは膨疹を生じるのが特徴ですが、手のように同じ原因物質が何度も繰り返し付着することで、膨疹ではなく湿疹反応を生じることがあり、蛋白質接触皮膚炎と呼ばれます。
手湿疹(手荒れ)の主な症状
手湿疹の症状としては、手掌、手背、指先、指腹に紅斑・丘疹・角化・乾燥・鱗屑・落屑・亀裂を生じます。
刺激性接触皮膚炎2)
刺激が加わる部位から始まり、利き手側の指先、爪囲、手掌に好発し、乾燥・鱗屑・軽度の紅斑から始まり、瘙痒により搔破すると苔癬化や角質増殖・皮膚の肥厚や亀裂を生じます。
アレルギー性接触皮膚炎2)
刺激性のものに比べると紅斑や小水疱といった湿疹症状や痒みが強いことが多く、指先や母指球、手背側が好発部位となります。指間や指の側面にも症状はよく見られます。
蛋白質接触皮膚炎2)
発症初期の症状は接触部位の膨疹と痒み、時には灼熱感や痛痒がみられることもあります。症状は接触中止で通常は数時間以内に消失しますが、その間に搔破してしまうと二次性の湿疹となります。
また、手湿疹は皮疹の臨床形態により、①角化型手湿疹、②進行性指掌角皮症、③貨幣状型手湿疹、④再発性水疱型(汗疱型)手湿疹、⑤乾燥・亀裂型手湿疹の5つに分類され、それぞれの症状には特徴があります2)4)。
角化型手湿疹
境界明瞭な厚い鱗屑が手掌にみられ、時に亀裂を伴います。
小水疱や明らかな紅斑はみられません。中年以降の男性に好発し、原因不明な場合が多いとされています。
進行性指掌角皮症
指先や指腹(特に利き腕)が乾燥して粗造となり、指紋が見えなくなり、さらに悪化すると亀裂を生じます。
皮膚バリア機能の低下と繰り返す物理的・化学的刺激が誘因と考えられます。
手をよく使う職種に従事する人、水仕事の多い職種に従事する人や主婦などに多く見られます。
貨幣状型手湿疹
主に手背に貨幣大の円形で痒みが強い湿疹がみられるのが特徴です。
再発性水疱型(汗疱型)手湿疹
手掌、手指側縁に両側性、対称性に小水疱が多発し、強い痒みを伴います。小水疱は次第に乾燥して落屑し、周囲に紅斑を伴うようになります。足底にも同様の病変がみられることもあります。夏期に悪化する傾向にあり、原因は明らかでないことが多いとされますが、ニッケルなどの金属アレルギーの関与も論じられています。
乾燥・亀裂型手湿疹
手掌、手指全体の乾燥と亀裂が特徴の慢性手湿疹です。皮膚のバリア機能の低下が誘因と考えられており、冬期に増悪する傾向にあります。
手湿疹(手荒れ)と似た疾患
手湿疹のように、手掌、手背、指先、指腹に紅斑・丘疹・角化・乾燥・鱗屑・落屑・亀裂などの症状を伴う疾患としては下記が鑑別として挙げられます4)5)6)。
- 掌蹠膿疱症:手掌(足底)に膿疱が多発する
- 掌蹠角化症:手掌(足底)が過度に角化する
- 真菌症(白癬症・カンジダ症):鱗屑、表皮剥離、水疱などがみられる
- 乾癬:表面に銀白色の鱗屑・角化を伴う紅斑が手背にみられ、爪の変形や関節炎がみられることもある
- 疥癬:手掌、指間に瘙痒の強い鱗屑を伴う丘疹がみられる
- 皮膚筋炎:両手指関節背面に紫紅色の角化性紅斑や丘疹(Gottron徴候)と手指の遠位側面に角化性の皮疹(メカニックハンド)がみられる
- 光線過敏性皮膚炎:両手背のみに紅斑がみられ、手指側面や手掌には皮疹がみられない
手湿疹(手荒れ)が悪化しやすい人の特徴
アトピー素因を有している人は、皮膚のバリア機能の低下をきたしている可能性が高く、それにより刺激性接触皮膚炎をきたしやすい状態にあります。特に石鹸、シャンプーなどに含まれる界面活性剤などは刺激になりやすく注意が必要となります。アトピー素因を有していなくとも、手を頻回に洗ったり、手をよく使ったり、手袋類(革・ゴム・プラスチックなど)を着用する機会の多い職種(理・美容師、医療従事者、飲食業、建設業など)に従事している人は、手湿疹を発症するリスクが高いため注意が必要となります。また、男性より女性の方が手湿疹の罹患率は高いとされており、これは環境的要因(女性は仕事以外でも家事などで手を使う頻度が高いことや、理・美容師や看護師といった手湿疹を起こしやすい職業に女性の割合が多いことなど)が関係しているためと考えられます7)。
手湿疹(手荒れ)の原因
手湿疹は男性より女性に多く、最も頻度の高い原因は接触刺激因子ですが、接触アレルゲン、即時型接触アレルゲン(食物などの蛋白抗原)などの外因性因子だけでなく、アトピー素因、原因が明かでない内因性も存在します。手に接触するものはどんなものでも原因となります。
刺激性接触皮膚炎の原因物質として頻度の高いものには、界面活性剤、消毒剤、化粧品、エポキシ樹脂などがあります。
アレルギー性接触皮膚炎の原因物質として頻度の高いものには、金属(ニッケル・コバルト・クロムなど)、樹脂(レジン)、ゴム(加硫促進剤も含む)、農薬(除草剤など)、植物(日本ではウルシ科、キク科、サクラソウ科など)などがあり、職業と関連するものも多いとされています。
蛋白質接触皮膚炎の原因物質として頻度の高いものには、食物、植物、動物、小麦、穀類、天然ゴム製品などがあります4)。
手湿疹(手荒れ)の予防方法
最も重要なのはスキンケアとなります。保湿剤をこまめに使用することで、皮膚のバリア機能の低下を防ぎます。皮膚のバリア機能が改善され、皮膚を最高の状態に保つことは、原因物質からの刺激を回避し、感作を受けにくくすることによりアレルギー発症を予防する手段となります。原因物質の特定をすることも予防には有用であり、アレルギー性接触皮膚炎が疑われた場合にはパッチテストが有用な手段となります。製品のパッチテストを実施し陽性の場合は、その製品の成分パッチテストをすることで原因成分の特定に至る可能性もあります。原因成分が特定されれば、他の製品に同じ原因成分が含まれているかどうか自身で確認することが可能となり、手湿疹の再発予防も可能となります。もちろん、原因と思われる製品を使用しないことが一番重要なことです。蛋白質接触皮膚炎が疑われる場合には、パッチテストに加えプリックテスト、スクラッチテストが有用な手段となります8)。
手湿疹(手荒れ)の対処方法
保湿剤によるスキンケアに努め、皮膚のバリア機能の改善を図ることが最も有用な対処法となります。瘙痒や紅斑などの炎症による皮膚バリア機能の低下や易刺激性を改善させるという意味では、ステロイド外用は予防的な側面を持つとともに症状改善の有効な治療となります。瘙痒が強い場合には抗ヒスタミン薬の内服も有効となります6)8)。
保湿外用薬6)
皮膚バリア機能の低下を補うため、保湿外用薬の外用は手湿疹の治療と予防において重要となります。
白色ワセリン、流動パラフィンなどの油脂製剤(エモリエント製剤)やヘパリン類似物質、尿素製剤などのモイスチャライザー製剤があり、それぞれの特性をよく把握した上で、皮疹の状態、患者の嗜好、生活様式、季節などの要素を加味して選択する必要があります6)。
もちろん市販の保湿クリーム類の単独使用や上記との併用も可能です。
ステロイド外用薬6)
皮膚の炎症は皮膚のバリア機能を低下させるだけでなく、痒みによる搔破でさらなる皮疹の悪化を招くため、抗炎症作用のあるステロイド外用薬によって炎症を制御することが重要となり、手湿疹の治療の第一選択薬となります。
症状に応じたランクのステロイド外用薬を選択することが症状改善には重要となるため、よく皮膚科医と相談しつつ選択する必要があります6)。
文献
1)公益社団法人日本皮膚科学会,一般財団法人日本アレルギー学会,アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021,日本皮膚科学会雑誌:131(13):2691-2777, 2021
2)日本皮膚科学会,日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会,手湿疹診療ガイドライン委員会:手湿疹診療ガイドライン,日本皮膚科学会雑誌:128(3):367-386, 2018
3)Coenraads P-J : Hand Eczema,New Engl J Med:367:1829-1837, 2012
4)高山かおる:手指衛生と手荒れ防止対策,小児科:62(7):727-735,2021
5)谷田宗男:手湿疹が治らない,medicina:54(9):1504-1508,2017-18
6)加藤則人:手湿疹の治療について,J Environ Dermatol Cutan Allergol:7(1):1-5,2013
7)独立行政法人労働者健康安全機構 労災疾病等医学研究普及サイト物理的因子疾患:職業性皮膚障害の実際・発生機序ならびにその予防に関する研究の追跡調査,http://www.research.johas.go.jp/inshi/15.hml
8)横関博雄:Protein contact dermatitis(蛋白質接触皮膚炎),臨皮:70(5):29-32,2016