在宅で療養する高齢者は、70%が何らかの皮膚トラブルを抱えていることが報告1)されています。スキントラブルは、高齢者に限らず乳幼児なども含めた在宅で療養する全世代の人々に見られます。
皮膚の乾燥は、皮膚(角質層)の柔軟性が低下して硬く脆くなり、角質層の水分量が減少した状態です。角質層の水分は、発汗、不感蒸泄、湿度や、水分を角質層に保持する能力(保湿能)によって保たれています。加齢、低栄養などは保湿能低下の要因となり、療養生活環境なども影響します。ドライスキンは、入浴湯温度の高さ、入浴時間の長さ、洗身時に使用するタオル類の材質、過度の洗浄剤の使用や洗浄、低湿な住環境などによっても起こります。
【皮脂欠乏性皮膚炎】
加齢や誤った入浴習慣などでドライスキンがあり、掻破する(掻く擦る)ことにより湿疹化します。
高齢者の下腿に多く見られ、加齢とともに増加し、特に冬季に好発します。
入浴時は、熱い湯温を控え(38度〜40度程度)、洗身時はナイロンタオルなどでごしごし擦らず、よく泡立てた石鹸を、手や柔らかい布などを使用して優しく洗浄します。
入浴後は保湿を行いましょう。 入浴後の水分摂取も大切です。
ドライスキンの予防には、保湿剤を用いた毎日のスキンケアが重要です。
保湿剤には、皮膚表面に油性の膜をつくり水分蒸発を防ぐエモリエントと、角質層に水分を与えるモイスチャライザーがあります。
90歳代女性 下腿部のドライスキン スキンケアは清拭のみ
清拭後、保湿剤を塗布
一般的には“ふやけ”と言われます。
皮膚(角質層)が過度の水分によって膨潤した状態です。皮膚が浸軟すると些細なずれや摩擦でも、容易に皮膚の損傷が起こりやすくなります。過度に湿潤しないためのスキンケアが重要になります。
【失禁関連皮膚炎(IAD)】
一般的には“おむつかぶれ”や“おむつ皮膚炎”などと言われることもあります。
*本ホームページ スキンケア講座 介護「ご家庭でできるおしりまわりのスキンケア」参照
日本創傷・失禁・オストミー管理学会では「失禁関連皮膚炎(IAD)は、尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎である。」と定義しています。 IADは、おむつに覆われた皮膚(角質層)が湿気により浸軟して、バリア機能が破綻した状態になっているところに、排泄物に含まれる消化酵素や細菌が、皮膚(真皮)組織の内部に入ることで生じる皮膚組織の障害です。
浸軟の予防には日頃からスキンケアを継続し、健やかな皮膚を維持することが大切です。スキンケアは、洗浄、保湿に加え、撥水クリームなどを用いた保護ケアを行い、水分や排泄物の付着から皮膚を守りましょう。
【体部白癬、足白癬、爪白癬】
一般的に足白癬は“水虫”と言われます。
*本ホームページスキンケア講座 フットケア「人ごとではない身近な水虫」「スキンケアが無視できない水虫、タムシ」参照
真菌(カビ)の一種である白癬菌が、皮膚や爪に寄生して発症します。発症部位により、身体は体部白癬、趾間(足指の間)は足白癬、爪は爪白癬と言います。
失禁状態にある療養者のおむつの内部は、尿によって浸軟した皮膚がおむつに密着していて、適度な温度と多湿な環境下にあります。このような環境は、細菌や真菌にとっては好環境であり、容易に皮膚感染を起こしやすくなります。
皮膚真菌感染症への対策は毎日のスキンケアが重要です。
おむつ使用時のケアは、失禁対策、陰部のスキンケア、適切なおむつ交換などを行い、真菌が増殖しにくい環境を整えることが大切です。
皮膚の洗浄後は、水分が残らないように清潔なタオルなどで優しく押さえ拭きをしましょう。毎日のスキンケアに、ミコナゾール硝酸塩含有石鹸を用いることは菌の増殖を抑制し、肌を清浄にすることに効果があります。また、ケアを行う介護者に水虫がある場合、療養者に感染することがあります。ケアを行う前は、手洗いを心がけましょう。
スキン‐テアは、医療的ケアや療養生活の中で生じる摩擦やずれによって発生します。強い痛みを伴い、治りにくく再発しやすいという特徴もあります。
後期高齢者(75歳以上)のスキン-テアの有病率は、前期高齢者(65歳から74歳まで)に比べ、3倍という報告2)もあります。75歳以上の高齢者のケアには、より注意が必要です。
車いす移乗時に発症
ベッド柵に打撲し発症
スキン-テアの予防には皮膚の保湿と保護が大切です。保湿ケアは1日2回以上行うとより効果的です。皮膚の保護には長袖の寝衣やアームカバーを用いて皮膚の露出を控えましょう。
※後述の「脆弱な皮膚のケア」参照。
*本ホームページスキンケア講座 介護「床(とこ)ずれはなぜできる?」参照
一般的には“床ずれ”などと言われることもあります。
褥瘡は、寝たきり状態などによって、体重で圧迫されている部分の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部に発赤(赤くなる)、びらん(ただれる)、潰瘍・損傷(傷ができる)などを発症することです。
在宅療養者は、病気や障害を持って生活をしています。特に高齢療養者の多くは、自分で体位変換ができない、長期間寝たきり、栄養状態が悪い、皮膚が脆いなどの状態があります。そのような状態で皮膚に圧迫や摩擦、ずれなどの刺激が繰り返されると、褥瘡になりやすくなります。
褥瘡予防には、皮膚を健やかに保つ正しいスキンケアを継続することが重要です。特に、骨の突出部分に圧迫や摩擦を加えると、褥瘡発生や悪化の要因になります。皮膚の洗浄や清拭は、圧迫や摩擦を避け優しく丁寧に行いましょう。皮膚の色に赤色や紫色の変化が見られた時は速やかに医師や看護師に相談しましょう。
一般的には“テープかぶれ”などと言われることもあります。
テープが貼付されている皮膚は、不感蒸泄が妨げられ皮膚が浸軟します。浸軟した皮膚は外部からの抵抗力が低下し、化学物質や微生物が皮膚(表皮)から侵入しやすくなります。それにより皮膚障害が発生しやすくなります。テープを剥がす時の刺激(剥離刺激)や、刺激物の侵入、細菌の増殖が原因で発生します。
在宅療養者は、褥瘡ケアやカテーテルの固定などにテープを使用します。スキントラブルを予防するために、1日1回スキンケアを行い、清潔なテープに交換しましょう。テープを剥がす時は皮膚を押さえながら優しくゆっくり剥がしましょう。テープは、毎回位置を変えて貼付することで、スキントラブルが予防できます。
在宅で療養する人々、特に要介護状態にある高齢者の皮膚はとても脆弱な(脆くて弱い)状態にあります。
*本ホームページ スキンケア講座 介護「ご家庭でできるスキンケア(大人編)」「高齢者のスキンケア」参照
皮膚には加齢とともに変化していく老化現象があります。それに加え、低栄養や貧血、疾患による皮膚症状、治療の影響、免疫・代謝機能や自然治癒力の低下により、皮膚の生理機能は更に低下します。高齢者の皮膚は、スキントラブルを起こしやすく、一度スキントラブルを生じると悪化しやすく治りにくい特徴があります。高齢者のスキントラブルを予防するためには、脆弱な皮膚を理解し、皮膚へのダメージを最小限にできるように、毎日の皮膚の観察とスキンケアを継続することが重要です。
高齢者の皮膚
脆弱な皮膚を守るには、清潔を保持する、刺激物を除去する、乾燥を予防する、紫外線から防御する、圧迫・摩擦・ずれから保護する、尿・便失禁による汚染から防御する、感染を予防する、保温保湿に努めることが大切です。皮膚を健やかに維持することができるように、予防的なスキンケアの実践が重要です。またスキンケアには、スキントラブルを予防するだけではなく、皮膚に触れること(タッチング)により、不安や緊張を緩め、痛みを和らげるなど、心身への安心感を与える効果があります。
スキンケア方法やスキンケア用品は、各家庭によってさまざまです。また介護力やケア環境も異なりますので、在宅ではその家で継続できる最善の方法を検討しましょう。
個々の状態に合わせて入浴・シャワー浴・部分浴・清拭などを行い清潔を保持します。同時に全身の皮膚を観察し異常の早期発見に努めましょう。
皮膚の洗浄は、38~40℃の熱すぎない温湯を用い、皮膚のバリア機能の低下や乾燥を防ぎます。洗浄は、弱酸性石鹸を十分泡立て、皮膚をごしごし強く擦らないように優しく行います。石鹸はポンプを押すと洗浄剤が泡状で出るものもあります。泡立てた石鹸はクッション効果を発揮して、洗浄時の刺激から皮膚を保護します。洗浄部位に泡を乗せ、手袋を装着した手で優しく包み込むように洗いましょう。その後、石鹸成分が皮膚に残らないように微温湯で洗い流します。石鹸の成分が皮膚に残るとスキントラブルの原因にもなりますので、十分な量の微温湯で洗い流します。洗浄後の皮膚は、乾いたガーゼなどを用いて優しく押さえ水分を拭き取ることも浸軟予防に大切です。石鹸や微温湯の洗い流しが不要な、清浄剤などを用いた洗浄方法もあります。
高齢者は、体温調節機能の低下により暖房器具を使用する場合が多くなります。加湿器などを使用して湿度が40%以下にならないように環境を調整しましょう。入浴や清拭の後には保湿剤を全身に塗布します。保湿剤を塗布するタイミングは、清潔ケア直後の、皮膚温が高く皮膚がしっとりしている状態のときが望ましいと言われますが、入浴直後に保湿ケアを行う時間的余裕のない場合もあります。保湿ケアで重要なことは、毎日継続したケアの実践です。清潔ケア後に、時間が経っても保湿を忘れないこと、保湿ケアを習慣化することが大切です。保湿剤は、一度にたくさん塗布せず、少量を両手に薄くのばし、皮膚を擦らず優しく馴染ませるように塗布します。ベタつきが気になる場合のほとんどは、つけすぎが原因です。少し足りないと思うくらいが適量です。つけすぎは皮膚汚染の原因になりますので注意しましょう。
また、スキン-テア予防には、1日2回保湿クリームを用いることでスキン-テアの発症率が半分になったという研究報告3)もあります。しかしながら、在宅では介護状況によって、保湿ケアを毎日全身にくまなく行うことは、大変な労力と時間を必要とします。皮膚に潤いを与える入浴剤を併用するなど、その家で継続できるスキンケアを行いましょう。また日頃から包帯やアームカバー、レッグウォーマーなどを活用して、皮膚を保護するケアも必要です。爪の手入れは定期的に行い、掻痒感による掻破の可能性がある場合は、手袋などを使用して皮膚の損傷を予防します。
皮膚を健やかに保つためには、栄養バランスや消化吸収の良い食生活を心がけ、アルコール・香辛料・味の濃い食品・熱い食品などの刺激物はなるべく控えましょう。外出時は、直射日光を避けるため肌の露出を避け、帽子などを着用することをお勧めします。
参考文献
1)袋 秀平,篠田 勘;平成28-29年在宅医療委員会報告:皮膚科医の往診・在宅医療の実態,意識調査(平成28年度)報告書(Ⅰ):日本臨床皮膚科医学会誌.35(1).124-131.2018.
2)一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会編;ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理,照林社,2015.
3) ケリリン・カービル;スキンテア 予測・予防・治療のエビデンス,日本創傷・オストミー・失禁管理学会会誌 第22回学術集会抄録集,p55-58,2013.
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