『かゆみ』とは,何らかの原因で皮膚や粘膜を掻きむしりたくなるような不快な感覚と定義されます.ムズがゆい,痛がゆい,チクチクする様な,焼ける様な,など人それぞれ感じ方が違います.なかには,かゆい場所を引っ掻いた時に,気持ちいいと感じる人もいます.さらに,気候,気分,体調など様々な要因に影響されます.このように,かゆみはいろいろな側面を持つ不思議な感覚です.
かゆみの原因は,皮膚に異常がある場合とそれ以外に問題がある場合とに大きく分けられます.皮膚に原因がありかゆみが生じる代表的なものは,アトピー性皮膚炎,虫刺され,蕁麻疹,疥癬※,乾燥性湿疹などです.皮膚からの異常は,神経を伝わり,脊髄を通って最終的に脳に伝えられ,かゆいと感じます.これらの中で特にかゆみが強いのは,アトピー性皮膚炎です.通常,引っ掻くとある程度,かゆみは抑えられます.しかし,アトピー性皮膚炎では,単純に引っ掻くだけでは,かゆみが治まらない場合がほとんどです.掻いても,かゆみが抑えられないため,さらに強く引っ掻くことにより,皮膚が破壊され,炎症が増強し,かゆみが悪化してしまいます.このような状況のことを『かゆみと掻破の悪循環』と呼びます.この悪循環がアトピー性皮膚炎の治りにくいかゆみの原因の一つとなっています.乾燥肌・敏感肌からくるかゆみは、皮膚のバリア機能が低下しているために起きてしまいます.乾燥皮膚では角層のバリア・水分保持機能が低下しています.さらに皮膚に分布している神経も異常な形態をしています.その結果,皮膚が過敏状態になり,かゆみが生じてしまいます.加えて,この皮膚が乾燥している状態では,外界からのアレルギー原因物質の侵入を許し,アレルギーを発症させてしまう可能性(経皮感作)があります.そのため,乾燥した皮膚の状態を放置しておくのは厳禁です.
これに対し皮膚に問題がなくてもかゆみが生じてしまう場合があります.その主な原因は,腎疾患,肝疾患,糖尿病,内臓悪性腫瘍などです.その他,白血病・リンパ腫などの血液疾患,多発性硬化症などの神経疾患などでもかゆみを生じる場合があります.さらに薬によって,かゆみが起こってしまっている場合もあります.薬で引き起こされる皮膚障害には,様々な種類がありますが,特に湿疹を呈する場合は,かゆみが強い傾向にあります.また,痛み止めとして使用されるモルヒネなどの一部(μ)のオピオイドも,かゆみを発生させてしまうことが知られています.
かゆみの治療は,主に塗り薬,内服薬と生活指導があります.塗り薬の代表的なものは,ステロイド外用薬です.皮膚の炎症を鎮めることにより,かゆみを抑えます.さらに,最近では,主にアトピー性皮膚炎に用いられる免疫抑制剤の軟膏もかゆみを抑えるのに効果的です.また,乾燥しているだけでも,かゆみが生じてしまいますので,皮膚の保湿は重要です.ただし,保湿剤の効果は,数時間しか持続しないため,頻繁に外用することが望ましいです.
かゆみを抑えるのに代表的な内服薬は,抗ヒスタミン剤です.かゆみの代表的な原因物質であるヒスタミンを抑えます.蕁麻疹などのかゆみにとても有効です.しかし,眠気を伴う場合があるので,車の運転時などには注意が必要です.それでも,かゆみが治まらない難治,重症例では,ステロイドや免疫抑制剤の内服も行われます.そのほか,漢方や抗アレルギー薬の内服薬も有効な場合もあります.
生活指導も重要です.かゆみを感じた時に引っ掻いてしまうと,逆に症状を悪化させてしまうことが多いため,まずは,冷やすことが有効です.また,食事もかゆみに影響します.魚介,肉,野菜,穀物,お酒などには,かゆみを生じる食品が含まれていることがあるため,注意が必要です.その他,過度のストレスもかゆみを悪化させてしまう可能性があります.ストレスを感じると体内からストレスホルモンが分泌されかゆみを悪化させます.さらに,汗もかゆみの原因になることがあります.特にアトピー性皮膚炎では,汗はかゆみの主要な悪化因子のひとつです.これらの悪化因子をなるべく避けることが重要です.
以上,簡単ではございますが,かゆみについてのご説明をさせて頂きました.かゆみ原因は,たくさんありますが,なるべくその原因を見つけて,それに合った治療が理想的です.
※疥癬(かいせん)とは「ヒゼンダニ」がヒトの皮膚に寄生して起こる皮膚の病気です。