海老原 全 先生

アトピー

慶應義塾大学医学部 皮膚科学教室
准教授
海老原 全 先生

 アトピー性皮膚炎は慢性的に湿疹を繰り返す病気ですが、皮膚バリア機能の低下とアレルギーによる炎症が絡み合って生じると考えられています。皮膚バリア機能とは外界からの異物の侵入を防いだり、水分を保持する機能です。アトピー性皮膚炎ではフィラグリンというタンパク質の遺伝子変異が一つの原因になっているとヨーロッパの研究から報告されました。フィラグリンは皮膚の最外層である角層の細胞を構成する主要なタンパク質で、角層細胞の中のケラチン線維を凝集させ束ね、角層のバリアを強固にする機能を持っています。フィラグリンがアミノ酸にまで分解されると天然保湿因子となり、皮膚の水分保持に働きます。フィラグリンの遺伝子変異があれば、フィラグリンの減少、消失を引き起こし、皮膚のバリア機能が低下することになります。ヨーロッパのアトピー性皮膚炎患者の約4割、日本人のアトピー性皮膚炎患者の約1−2割がフィラグリン遺伝子の変異を持っていることがわかっています。さらに、変異を持っている人の割合について、私たちの研究では、日本人の患者の中でも地域差があることがわかりました。北海道、東京、石垣島でのデータを見比べると、フィラグリンの変異を持ったアトピー性皮膚炎患者さんの割合は北海道で高く、東京、さらに石垣島は少ないという結果でした。アトピー性皮膚炎はもともと生活環境が関係する病気とされてきましたが、この結果から推測されるのは、たとえ遺伝的な要素、つまりフィラグリン遺伝子変異のような素因を持っていても、生まれた後の環境、たとえば温暖で湿潤な環境、皮膚が乾燥しづらいところで育ったりすると、アトピー性皮膚炎を発症しない可能性もあるということです。ここで大事になってくるのが皮膚を乾燥させない、保護するというスキンケアです。実際に、アトピー性皮膚炎になりやすい赤ちゃんたちを生まれてすぐからしっかりと保湿をしていくと、アトピー性皮膚炎になる率が減少したというデータも出てきました。

 このように美容的な観点のみならず、医学的にもスキンケアが重要視されてきています。子供の頃から適切なスキンケアを行い、バリア機能を保つことができれば、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性の病気を予防できるのではないかという可能性がでてきたのです。

 バリア機能の低下はアトピー性皮膚炎のみならず、身近な肌の乾燥によっても起こり得ます。乾燥肌は加齢からくるのはもちろんのこと、季節や空調の影響などで乾燥した環境では誰でもなりやすいので注意が必要です。肌が乾燥し皮膚のバリア機能が低下すると、衣服での摩擦など少しの刺激でかゆみや炎症が生じるなど、肌のトラブルが起きやすくなります。なかでも皮脂欠乏性湿疹はかゆみを伴う湿疹で、主にすねや腰に好発し、高齢者に多く見られます。こうした肌のトラブルを予防するためにはやはりスキンケアが重要となるのです。

 スキンケアの基本は乾燥を防ぐこと(保湿)、紫外線を防ぐこと、肌を清潔に保つことです。紫外線はシミ、シワの原因になりますし、皮膚がんの発症リスクにもなります。洗いすぎは逆にダメですが、適切に皮膚を清潔に保つことは必要です。

 皮膚は巧妙で複雑な仕組みによって人間の体を守る優れた機能を発揮していますが、まだまだ解明されていない部分も多く、巷には明らかに適切でないスキンケアの方法や製品がすすめられている場合があります。適切なスキンケアを知り、そして実践し、美しいだけでなく、肌が持つ本来の機能が維持されるようにしていきたいものです。

※ケラチンとは、人の皮膚や毛などに含まれ、細胞の構造維持に関与するタンパク質

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