アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと発疹が繰り返しあらわれる皮膚の病気です。アトピー性皮膚炎の皮膚の状態や、皮膚のバリア機能を保つために必要なこと、スキンケア方法などをお話していただきました。
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと発疹(ほっしん)が繰り返しあらわれる皮膚の病気です。発疹は、顔や首、肘、膝などにあらわれやすく、ひどくなると全身に広がります。
2000〜2002年に行われた厚生労働省の全国調査では、4ヵ月児の12.8%、1歳6ヵ月児の9.8%、3歳児の13.2%、小学1年生の11.8%、小学6年生の10.6%、大学1年生の8.2%が、アトピー性皮膚炎でした。
このように、たくさんの人がアトピー性皮膚炎に悩んでいます。
口の周りや頬がアトピー性皮膚炎になっています。一般的に、乳児の症状は、頭や顔からはじまります。
なお、乳児期の食物アレルギーでは、顔や全身にみみずばれのような赤みとかゆみがあらわれますが、アトピー性皮膚炎とは別々に治療する必要があります。まずは、皮膚科専門医に相談しましょう。
幼小児期には、肘や膝など手足の関節部分にアトピー性皮膚炎が多くみられます。また、耳切れとよばれる、耳の付け根のくぼみに発疹があらわれ、“あかぎれ” のような症状もみられます。
一般的に、子どもは大人より皮膚の状態がよいと思われがちですが、実は、生後3〜4ヵ月から思春期までの子どもの皮膚は、皮脂の分泌がとても少なく、乾燥していることが分かっています。
一般的に、子どもは大人より皮膚の状態がよいと思われがちですが、実は、生後3〜4ヵ月から思春期までの子どもの皮膚は、皮脂の分泌がとても少なく、乾燥していることが分かっています。
下半身よりも上半身で発疹がよくみられ、顔、首から胸にかけて、背中などに発疹が強く出る傾向があります。
繰り返し掻くことにより、皮膚がゴワゴワと厚くなります。これは苔癬化(たいせんか)と呼ばれます。
また、同じ部分をずっと掻いていると、皮膚が硬く盛り上がり、かゆみが持続するようになります。これは痒疹(ようしん)と呼ばれます。
アトピー性皮膚炎の方の皮膚は、バリア機能が弱まり、水分が外へ出てしまっているため、乾燥しています。乾燥した皮膚は、外部からの刺激物質が侵入しやすくなっています。
皮膚が乾燥していると、外部からの刺激を受け、かゆみを感じます。そこで掻いてしまうと、新たな傷が生じたり傷口が悪化して、皮膚の状態がさらに悪化します。掻いた刺激によりかゆみが増すため、また掻いてしまい‥という悪循環になってしまいます。
皮膚のバリア機能を正常に保つためには、「3大保湿因子」をしっかりと補うことが重要です。正常な皮膚では、水分が保たれ、外部の刺激物質もブロックされています。こうした皮膚のバリア機能には、3大保湿因子が関係しています。
角質細胞の内部に水分をたっぷり補給します。アミノ酸などの成分があります。
水分保持作用が高く、角質細胞の間を埋めてうるおいを保ってくれます。
皮脂膜を強化し、水分の蒸発を防ぎます。皮脂類似成分にはスクワランなどがあります。
最近では、新生児期の早いうちから全身に保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎になるリスクを3割減らすことができたという報告※もあります。
保湿をこころがけ、皮膚を乾燥させないことが大切です。
乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を正常に保つためのスキンケアは、アトピー性皮膚炎の標準治療のひとつとされています。また、アトピー性皮膚炎は、症状の改善と悪化を繰り返すことがあるため、症状が重いときだけでなく、軽いときにも、スキンケアを行うことが大切です。
スキンケアの基本は、清潔な皮膚を保つための入浴と、皮膚のうるおいを保つための保湿です。
この2つを正しく行い、皮膚のバリア機能をしっかりと保持しましょう。
体を洗うときは、石鹸をしっかりと泡立てることが大切です。上手に泡立てるために、固形石鹸の場合には泡立てネットを、液体石鹸の場合には泡立てネットやペットボトルを活用すると良いでしょう。また、時間がない方や泡立てが苦手な方には最初から泡状になったタイプの石鹸も便利です。
石鹸の種類は、皮脂をとりすぎず、適度なうるおいを残すタイプがおすすめです。
体をかるくぬらした後、①で作った泡を使って、指の腹でしっかりと洗いましょう。
関節部のシワをのばすように洗います。また、膝の表と裏をよく洗います。
お子さんの顔や目の周りなどを洗うときに嫌がる場合がありますが、清潔な皮膚を保つために、しっかりと洗いましょう。
●固形石鹸や液体石鹸を泡立てずに、直接体につけることはやめましょう。
●皮膚を傷つけないために、ナイロンのタオルやスポンジ、目の粗いタオルの使用は避けましょう。
●発疹が出ているときも清潔にすることは大切です。
●真菌(カビ)がアトピー性皮膚炎を悪化させる原因になることもあります。気になる方には抗カビ成分配合の洗浄剤もおすすめです。洗浄剤の使用については医師に相談しましょう。
洗った後は、ぬるめのお湯で十分にすすぎ、しっかりと汚れと石鹸を洗い流しましょう。
石鹸が皮膚に残っていると、刺激になることがあります。すすぎ落ちが良い石鹸を選ぶと良いでしょう。
体が温まるとかゆみが起きやすくなるため、長時間お風呂につかることや、高温のお風呂につかることは避けましょう。保湿成分が入った入浴剤を使用すると、手が届きにくい背中のスキンケアや、じっとしていられないお子さんのスキンケアが簡単にできます。
3大保湿因子の働きをする成分が入っているものを選ぶと、皮膚のバリア機能を補ってくれます。
体をふくときは、タオルで体を包み込みおさえるようにします。こすらずに、やさしくふくことが大切です。
●お風呂と同様に、長時間や高温のシャワーもかゆみが起きやすくなりますので避けましょう。
●入浴剤を選ぶときは、体を温めたり、皮膚を乾燥させる成分が入っているものや、入浴後にほてりを感じるようなものは避けましょう。
入浴すると、皮膚の脂分が洗い流されます。そのため、何もしない状態でいると、すぐに皮膚が乾燥してしまいます。入浴後、5分以内に保湿剤を塗りましょう。
保湿剤は、こすらず、やさしく手のひらで広げます。
関節やシワがある部分は、皮膚をのばして塗ります。
目や耳の周りも忘れずに塗りましょう。
アトピー性皮膚炎の症状があるときはもちろん、症状がないときでも、日常的に保湿することが大切です。
保湿剤には、様々な種類があり、のびが良いものや、べたつかないものなどもあります。好みや季節などに合わせて、使用感の良いものを選びましょう。
3大保湿因子類似成分が入った保湿剤もあります。
ワセリンなど油性の保湿剤は、乾いている皮膚の表面に塗っても、水分を補給する効果があまり期待できません。
入浴後5分を過ぎた場合には、霧吹きやガーゼで皮膚を湿らせたり、化粧水を付けたうえで塗ると良いでしょう。
発疹が出ている場合は皮膚科を受診し、保湿剤の使用については医師の指示に従いましょう。
とくに指示がなければ、保湿剤を周囲の乾燥している部分にやや広めに塗り、その後で薬を塗ります。
アトピー性皮膚炎は、掻くことで症状が悪化しますので、かゆみは大きな問題です。
●乾燥がかゆみの原因となるため、保湿剤を多めに塗ったり、保湿剤を携帯し塗る回数を増やすことで、皮膚のうるおいを保ち、かゆみを和らげることができます。
●ほてりもかゆみの原因となります。かゆみのある部分に水をかけたり、保冷剤を当てて冷やすことも効果的です。
●お子さんが掻くことを我慢できない場合には、爪を短く切る、掻きやすい部分にガーゼを巻く、袖や裾がまくりあがらないようにテープやひもで結ぶなど、掻いても害が少なくなる工夫があります。
●女性の場合には、ネイルをつけることで、はがれることを避けるために掻くのを止められるケースもあります。
●ストレスを発散できる趣味や習慣を身につけることで、ストレスによって掻く場面を減らすことができます。
●暑い時期や運動した後などは、できるだけ早くシャワーや水で汗を洗い流し、皮膚を清潔に保つことが大切です。このようなときには、入浴の回数を増やしましょう。ただし、石鹸の使用は1日1回までにしましょう。
●外出時にハンドタオルを持参する、刺激の少ないウェットティッシュを使い、こすらず押さえるようにして汗をぬぐう、などの工夫をしてみましょう。
●部屋の中を清潔に保つことが大切です。週に1回以上は掃除しましょう。フローリングでは、掃除機だけではなく、ウェットシートや雑巾も活用しましょう。
●布団は羽毛や羊毛の綿ではなく、ダニがつかないポリエステル綿がおすすめです。
できれば、布団に掃除機をかけ、半年に一度は丸洗いしましょう。
●刺激の少ない服を着ることが大切です。購入するときは、できれば試着して、実際の肌心地を確かめましょう。
医療関係者からの
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